美しい彫刻と海の織りなす芸術「海底美術館」

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出典:MOUA Hero Images (photo by Matt Curnock)

海の中に佇む彫刻、幻想的な光景です。世界の海にはいくつか、こうしたアート作品の展示が海底で行われています。海中美術館や水中美術館などとも呼ばれる、このような作品の展示は一体どんな目的で行われているのでしょうか。

 

海の底でアートを展示する「海底美術館」

海底美術館とは

海の底に彫刻作品などをいくつも設置し、普通の美術館のような形で展示するのが海底美術館です。ダイビングやシュノーケリングでしか訪れることができず、普段は海洋生物がもっぱらのお客さんとなっています。

近くに訪れたダイバーたちの観光スポットにもなっていて、通常の美術館とはまったく異なる趣きが話題です。

海底美術館の狙い

海洋環境保護のため

こうした海底美術館の展示物は、海洋環境を汚染しない特殊なステンレスやph中性のコンクリート、天然の岩石などで作られています。プラスチックは含まず、経年しても海洋環境に悪影響を及ぼすことはありません。

このような素材を選んでまでなぜ海中に展示をするのかといえば、これらのアートがサンゴや魚などの海洋生物の棲み処となる「人工岩礁(人工魚礁)」だからです。

海底のサンゴや海洋生物たちは、海洋環境の汚染や海水温の上昇、乱獲などが原因のストレスにさらされています。海水温の上昇でサンゴが白化したり、海洋汚染でサンゴ礁が失われたりすると、海の生物のバランスも崩れてしまうのです。

海底美術館で展示されたものはこうした危機に瀕する生物のため、引き上げられることなく海の底で展示され続けます。時間とともに展示された作品は「生きた彫刻」になり、海洋生物の手で絶えず変化する作品になるのです。

 

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Photo by R. Fera from Pexels

 

海洋環境問題の啓蒙

海底にアート作品を展示することによって、環境問題への問題を知ってもらおうという狙いも海底美術館にはあります。展示作品に込められている意味はもちろん、海の中に新しい観光スポットを造りだすことによって、天然のサンゴ礁などに訪れる人を減らそうという考えのもとで作られました。

生物たちの生活する天然の岩礁は美しく、海を好む人々の心を引き付けます。しかし海洋生物がみずから生みだした生活の場に人間が訪れることはそれ自体がかなりのストレスになるのです。

海に芸術作品を配置することによって生物たちのストレスを減らし、展示している作品の一つひとつにも海の問題に取り組む人々の姿や意識・姿勢を取り入れます。豊かな海洋環境を取り戻すため、このように問題を知ってもらうことが一つの狙いなのです。

 

地域住民の文化の継承と振興

各地の住民による芸術文化の振興や、先住民の文化の保存や記憶の継承の狙いも海底美術館にはあります。地域のアート連合が主導して、海底に連合参加のアーティストたちの作品を設置するなど、地域の振興と環境保護の2つの面からアプローチした展示群なども存在しているのです。

また先住民族の文化を伝えるような展示もあります。展示物は海底に固定されることで、作品に描かれた文化が忘れられることなく、次の世代に語り継がれていくのです。

 

 

世界中にある海底美術館を紹介

メキシコ カンクン海底美術館

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出典:MUSA(https://musamexico.org/

メキシコの南東部に位置する、カリブ海沿岸リゾート地として知られるカンクン近くの海底にも美術館はあります。国立海洋公園であるこの地に設置された400を超える等身大の立像は「The Silent Evolution(無言の進化)」と題された芸術作品の一部です。

MUSA(Museo Subacuatico de Arte)と呼ばれる海底美術館の初めての企画で、ロンドン芸術大学で現代彫刻を学びながらスキューバダイビングのインストラクター免許を取り、水中写真家などとしても活動するジェイソン・デケアレス・テイラー(Jason deCaires Taylor)氏の作品が並びます。

カンクン立海洋公園からサンゴ礁の保護の方法を考えることを指名されたテイラー氏が、海洋生物学者やダイビングセンターと力を合せてこの美術館を作り上げました。作品は魚礁になるようにとの狙いで海底に設置され、サンゴが生態系や人にどのような影響をあたえるのか伝える展示になっています。

 

カナリア諸島 アトランティコ海底美術館

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出典:https://www.underwatersculpture.com/projects/museo-atlantico-lanzarote/

Photograph courtesy Jason deCaires Taylor

アフリカ沖のスペイン、カナリア諸島ランサローテ島ユネスコ世界生物圏保護区内にあるのがアトランティコ海底美術館(MuseoAtlántico)です。この展示もカンクンの海底美術館を解説したジェイソン・デケアレス・テイラー氏が手掛けました。

 以前は不毛だった海底に300以上の立像を配置するには、計画と製作で3年の月日を費やしました。

テイラー氏はルーヴル美術館に所蔵されている、19世紀フランスロマン主義の画家テオドール・ジェリコーの油彩画『メデューズ号の筏』からインスピレーションを得て、この海底美術館の作品の構造を編み出しました。

テイラー氏の設置した『ランペドゥーサ島の筏』はランサローテ島に逃げのびた難民のアブデル・ケーダーを代表にし、『メデューズ号の筏』の悲劇を通じて現代の難民問題に向き合う作品です。

 

オーストラリア グレートバリアリーフ MOUA

世界最大のサンゴ礁地帯のあるオーストラリア・グレートバリアリーフの海底美術館です。The Museum of Underwater Art(MOUA)はクイーンズランドの「海の森林」の保全活動であり、2021年の現在もプロジェクトが進行しています。

作品の製作にはテイラー氏も参加しました。海面上にあり、陸からも眺めることのできる先住民の少女をモチーフにした像『オーシャン・サイレン(Ocean Siren)』は、視覚的に海洋問題を知らせてくれます。

海中にはサンゴの繁殖を促進するスチールを用いた『コーラルグリーンハウス(Coral Greenhouse)』や、その周辺には『リーフガーディアンズ(reef guardians)』という20体の像が立っています。

前者は作品そのものが魚礁となり、サンゴ礁の保護と修復の重要性を教えてくれる作品です。そして後者は、サンゴを保護生育活動をしている地元の学生たちの姿を描写しています。

 

海底美術館は芸術文化の振興と海洋環境の保護を担う

見た目にも美しい海底美術館ですが、その狙いは芸術作品の展示や鑑賞に留まりません。サンゴを始めとした海洋生物の保全や、文化の継承、現代の社会が抱える問題の提起など様々な側面があるのです。

ダイビングやシュノーケリングができなくとも底面が透明なボートなどでも鑑賞ができるようなので、いつか訪れてみたいと思います。

 

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