【天然繊維】ファッションにおけるサステナビリティと解決策としての素材2

f:id:mokokenomo:20210312184859p:plain

未来の世代によりよい暮らしをつなぐための17の目標であるSDGsは、2030年までに達成するため掲げられました。2020年代は「行動の10年」として、構想のみでなく実際の行動を変える必要があります。

素材はファッション業界内や関連業界の企業から、課題解決の出発点に選ばれました。サステナブルの論点との関わりが大きいファッションの素材のうち、今回は「天然繊維」についての取り組みと問題点を紹介します。

 

ファッションにおける天然繊維のサステナビリティ

ファッションの素材となる繊維には化学繊維と天然繊維があります。前回は化学繊維を紹介しました。

mokokenomo.hatenablog.com

化学繊維は環境汚染や資源、エネルギーなどに課題がありましたが、天然繊維はそれをクリアできるのでしょうか?

天然繊維とは?

ファッションで使用される天然繊維には「植物繊維」「動物繊維」があります。

名前の通り植物繊維は植物から取れる繊維で、動物繊維は毛皮や動物が生み出すことで得られる繊維です。よく見られる植物繊維と動物繊維には以下のようなものがあります

  • 綿(コットン)
  • 麻(リネン……)
  • 毛(ウール、モヘヤ、カシミア……)
  • 絹(シルク)

天然繊維はサステナブルなのか?

天然繊維に求められていること

天然繊維は生分解性があり、廃棄となった場合の環境負荷が軽いのが特徴です。資源の再生可能性も高いものもあり、自然環境の保全を主眼に置いてみれば天然繊維の持続可能性は化学繊維よりも高いように思えます。

また着用するのに優れた機能性があったり、肌触りが良かったりと衣料品としてのメリットがあります。

天然繊維の問題点と課題

天然繊維は原料となる植物や動物を育てるために、一定の環境負荷がかかります。大量の水の使用やメタンガスの排出、家畜を育てる際の飼料などは他の業界とも繋がる問題です。

繊維用の植物を栽培する農家などは、これまでの栽培方法から持続可能な農業、農法に移行する必要が出てきます。それにかかる手間と時間は決して少なくありません。

また動物繊維の場合は、動物愛護の観点からアニマルフリーを進める動きがあるなかで、重視するものの違いから立場を異にする意見も出ています。

天然繊維も化学繊維と同様に、「サステナブルなファッション業界」を手探りで進んでいる状態です。

植物繊維

植物から取れる繊維を紡績して糸にしたものが植物繊維です。資源の利用が再生能力を超えない「再生可能性」がある原料もあり、環境への負荷が少ない素材とみなされることが多いです。

しかし栽培の場である農業では大量の水を使用したり、農薬や殺虫剤、化学肥料などの使用が不可欠だったりと、一概に環境負荷が少ないとも言えません。またこうした化学薬剤は労働者の身体に影響を与えることもあります。

奨励される有機農法は効率の悪化や虫害の懸念などがあり、現場への導入を手放しで進めるには課題が多いのが現状です。

開発地域での農業では、労働力の不当な低賃金問題などもありサステナブルにはまだ道半ばと言えるでしょう。

綿(コットン)

f:id:mokokenomo:20210312184855j:plain

天然繊維でも最も身近な素材であるのが綿(コットン)です。

WWF(世界自然保護基金)によると、一枚のTシャツを作るのに必要なコットンの生産に使用される水は2,700ℓとされています。これは1日の平均飲料水を一人あたり約1.5ℓとすると約5年分です。綿の栽培にはまず、このように多量の水が必要になります。

水の使用量だけが問題ではありません。農薬や化学肥料などの化学物質を畑などに使用すると、その土壌を通った水が汚染され、河川をはじめとする水質汚染を引き起こすのです。しかも合成肥料などの化学物質のなかには、温室効果ガスを排出する性質を持つものもあります。

 

こうした綿栽培の問題を解決する素材として注目されているのがオーガニックコットンです。オーガニックコットンとは農薬を3年以上使用していない土地で作られている、有機肥料を使用している、遺伝子組み換えでない種子を使用しないなどの一定の条件をクリアした環境で生産された綿花をいいます。

世界で様々な認証のもとオーガニックコットンは生産されていて、認証機関や団体ごとに「オーガニックコットン」を名乗れる条件の仔細は異なります。

イギリスのソイルアソシエーションによると、オーガニックコットンを栽培するのに必要な水は247ℓほどで従来の9%しか必要ありません。化学物質も使用しないため土壌に影響を与えず、その土を通った雨などが流れ出した河川も汚染されることがないのです。

 

2018年8月~19年7月の一年間のオーガニックコットンの生産量は23万9787トンで前年の同時期と比べ31%増えました。しかしこれでも全綿花生産量に占める割合は0.7%ほどで、1%にも満たない数字です。

産出量は一般的な綿の栽培方法のほうが多く、オーガニックコットンはまだ限られた地域でしか根付いていません。

しかし環境と農家の健康に配慮したオーガニックコットンのような取り組みは企業や団体を通じて活発化していて、水や農薬使用の軽減などを求めるベターコットンイニシアチブや、従来の方法からオーガニックコットンに移行する3年の間に収穫されたものを「プレオーガニックコットン」として使用する動きが広がりを見せています。

ファッションの原料としての綿は、オーガニックコットンをはじめとした環境負荷や労働者の健康への負担の少ない方法で栽培された綿の収穫量を増やすことが当面の課題とされています。

リサイクルできる繊維の綿は、一度製品になっても反毛して再び繊維として利用したり、品質が劣化すればケミカルリサイクルで再生繊維として使用したりが可能です。栽培した後のこうしたサイクルをしっかりと構築できれば、綿素材はさらにサステナブルになります。

 

f:id:mokokenomo:20210312184835j:plain

リネンをはじめとした麻素材も身近な天然繊維です。リネンがイコールで麻素材ではなく、亜麻がリネン、苧麻がラミー、大麻ヘンプ、黄麻がジュートというように原料となる植物ごとに呼称は異なります。

日本の家庭用品質表示法で「麻」と表記できるのは、亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)のみであり、その他の麻を使用した製品でも麻とは表記できません。

 

麻は栽培に農薬や肥料をほとんど必要とせず、水も綿の栽培ほど必要ない点がサステナブルであると評価を受けています。収穫した麻は捨てるところなく活用できて、CO2の吸収率も高いのも特徴です。

しかしリネンは畑の状態の影響を大きく受ける素材でもあります。麻は一度栽培したら5~7年程度の間隔をあけ、土壌を良くしなければ再び栽培できないと言われています。その期間は他の作物を育てる循環型の農業形態の確立と、それに付随する需要の創出が課題ではないでしょうか。

動物繊維

ヒツジやヤギ、ウサギなどの他に、昆虫も含めた動物から取り出される繊維が動物繊維です。植物繊維や化学繊維と同じかそれ以上に身近な繊維でもあります。

動物繊維のサステナビリティは主に環境負荷と動物愛護の観点から語られることが多く、使用と不使用の両方の立場から様々な指摘がなされている素材です。

飼育環境やアニマルウェルネスの向上は不可欠ですが、需要の増加と共に増えた畜産は自然環境に影響を与えます。一方で生分解性があり、マイクロプラスチックなどの問題を抱える化学繊維よりも環境負荷が低いとの見方もあるのです。

どの立場に立ったとしても、動物の生命に関わる繊維であるからこそトレーサビリティ追跡可能性)がより一層重視されます。

ウール

f:id:mokokenomo:20210312184827j:plain

羊毛であるウールはセーターやソックスなどで広く親しまれています。生分解性があり、処分の際の環境負荷は低いです。ウールは長持ちするのが特徴で、調査会社ニールセンによるとウール素材の服はは衣類の中で最も所有期間が長いとされています。

ファストファッションの台頭で、服を買い手放すまでの期間が短いのも大きな問題でした。ウールはその点で良い素材です。

以前から、製造工程で出た繊維くずを再利用するシステムがあり、リサイクルも積極的に進められています。反毛して不織布やフェルト、衣料品の原料として使用されるのが一般的です。

 

ウールはヒツジから採れる毛であり、サステナビリティにはその生育環境の維持が問題のひとつとして挙げられています。飼育規模の拡大や過放牧によって緑地が砂漠化する、飼料を育てるために大量の水を必要とするなど環境に与える影響も少なくありません。

さらにヒツジの身体に施す処置も議論されています。オーストラリアのメリノ種のヒツジはハエなどの寄生を防ぐ目的で、臀部の皮膚の皺部分を切り取る「ミュールシング」が行われます。動物愛護の観点からオーストラリア産の羊毛を使用しない決定をした企業もあるなかで、この処置が子羊の生存率を上げるとの意見もあります。

 

絹(シルク)

f:id:mokokenomo:20210312184737j:plain

シルクは蚕の繭からとった繊維です。かつての日本は養蚕業が盛んで、世界の生糸の6割もの生産を担っていました。現在は中国、インド、ブラジルなどの生産で世界の9割を占めています。

シルクには他の素材と同様にGOTSオーガニック・テキスタイル世界基準)の認証制度があり、それに適合するよう製品作りが行われている素材でもあります。

蚕の餌となる桑の畑では農薬などを使わず、他の植物や木とともに育て鳥を呼ぶ、循環型の農場を作り上げたケースもあり、持続可能なサプライチェーンの仕組みが形成されつつあるようです。

シルクにおけるサステナビリティへの課題はコストがかさむ点にあります。有機農業で育てた桑や、その桑を必要とする蚕からとれるシルクは他のものよりも高価になるためです。

元から高級な印象のあるシルクでは、さらに高価な品物が値段に見合う工程を踏んでいる旨を消費者に伝える必要があります。「売れないから値段を引き下げる」のではなく、消費者教育で価値を伝えなくてはならないのです。そうして達成されたフェアトレードが、さらにファッション業界のサステナビリティに貢献します。

天然繊維もどの視点に立つかで判断に迷うものも

天然繊維も化学繊維と同様に、一概に「○○だからサステナブルである」と判断できるものだけではありません。ファッション業界がサステナブルであるには、認証やプログラムの内容を知り、それぞれの工程を各々で追跡して検証していく必要があります。

 

Copyright ©もこけのもけもけ All rights reserved.

プライバシーポリシー