「ファッション業界史上最悪の事故」ラナプラザ崩落事故とは

f:id:mokokenomo:20210415184719j:plain

エシカル」つまり倫理的であることは、消費者の商品選びにおいて昨今重視される要素のひとつである。ファッションやアパレルは特にその傾向が強い業界であり、また企業側が率先して働く人や環境、資源に配慮する取り組みを導入してきた。

しかしファッション業界が特に進歩的とだったわけではなく、その背景には2013年にバングラデシュで起こったラナプラザの崩落事故がある。

ここではファッション業界の中で「倫理的であること」を活発化させるに至った事故を紹介する。

 

 

概要

2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊シャバールの商業ビル「ラナプラザ」が崩落した。死者は1,134人、行方不明者330人、負傷者2,500人以上が確認され、その凄惨さからファッション業界史上最悪の出来事と言われている。

崩落の原因は地震などではなく、ビルのずさんな管理体制にあった。ラナプラザは縫製工場のほか商店や銀行も入っていた、地元有力者がオーナーのビルだった。オーナーの権限により違法な増築が繰り返され、建物の耐震性がクリアできない状態になっていたと考えられている。

ニューヨーク大学スターンスクールの「ビジネスと人権センター(Center for Business and Human Rights)」によると以下のように報告されている。

「事故前日の4月23日、5つの縫製工場が入居していた「ラナ・プラザ」の従業員らは、8階建てのビルの異変に気づいていたという。壁や柱にひびが入っているのを発見した従業員らはマネージャーに報告し、地元警察は検査のための退去命令を出していた。それにも関わらず、ビルのオーナーは問題ないと主張。工場のマネージャーらは従業員に仕事に戻らなければ、解雇の可能性があると話していた。

  解雇を恐れた従業員がいつも通り出勤した翌日、午前9時頃にビルが停電し、違法に増築したビルの上層部に設置された発電機が稼働。発電機の振動と動き出したミシンなどの機械の振動が共鳴して建物を揺らし、崩壊を引き起こした。」

引用

www.fashionsnap.com

基準を守らずに多くの犠牲者を出したラナプラザの崩落は、本来防げたはずの人的災害に他ならない。

背景

f:id:mokokenomo:20210415184652j:plain
事故の犠牲者

この崩落事故の犠牲の多くは、ビル内の縫製工場で働いていた若い女性だ。貧困ゆえに職を失うことを恐れ、低賃金や労働組合の結成が認められないなどの劣悪な労働条件を強いられていた。

崩落前日には建物の異常の点検のため、警察からの退去命令が出ていてもそれに従わなかったのには貧困の構造的な問題があったといえるだろう。

バングラデシュにおける縫製が抱える事情

バングラデシュの主要産業は衣料品・縫製品産業農業である。2019年現在では年間405億ドルの輸出のうち、86.2%がニットを含む衣類品と発表されている*1

バングラデシュにとって縫製品は輸出の要であり一大産業、働き手が多い。国際的なファストファッションブランドなどが人件費の安さから縫製工場を置くのが理由であり、こうした状況はバングラデシュに限らず様々な国で問題になっている労働問題に直結している。

このような背景から売上をあげたいビルオーナーなどの経営者側は貧困層をスウェットショップで業務に就かせ、特にラナプラザのケースでは建築の不備や基準を無視した状態でなおも働かせ続けた。

サプライチェーンの透明化が求められる

ラナプラザ崩落事故以前から、バングラデシュの工場では火災などが起こっていた。死亡事故も初めてではなく、2012年にはアメリカの「ウォルマート」などの有名ショップの衣料品工場で火災が発生していた。死者117人という大事故だったにも関わらず、ブランド側はその下請け工場を関知していなかったと発表した。

ブランド側が把握しない下請けの存在は、貧困ゆえの搾取の温床となる。その劣悪な環境を変えようという流れが出来上がりつつあった2013年に史上最悪と言われるラナプラザの崩落事故が起き、その悲惨さから、皮肉にもバングラデシュにおける労働環境の改善の歩みを速める結果になった。

事故後の影響

ラナプラザの崩落事故を契機にアパレルメーカー各位が協定や同盟を結び、バングラデシュを取り巻く労働問題改善へ動き始めた。ヨーロッパ系企業を中心に「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全性に関する協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh )」、アメリカを中心とした企業は「バングラデシュ労働者の安全のための提携(Alliance for Bangladesh Worker Safety)」を締結し、労働環境の改善を目指している。

業界内の取り組み

崩落事故の起こった1月後、2013年5月にはアコードが締結され、H&MZARA親会社インディテックス、テスコ、ベネトン、同年8月には「ユニクロ」や「GU」「Theory」などを展開するファーストリテイリングなど20ヵ国220もの企業が調印した。少なくとも250万人を雇用する1600以上の工場をカバーしている。法的拘束力を持っている協定であるアコードは、労働組合と協力して労働環境の改善を目指している。

同時期に締結されたアライアンスは、ウォルマートやGAPなど26社が加盟。どちらとも、バングラデシュの労働者のための工場検査などを行っている。

これまで検査の末閉鎖に至った工場は20以上にのぼるが、一方で工場閉鎖などによる失業者への手当ても問題とされた。アライアンスは工場閉鎖などにより職を失った労働者への賃金の支払についてポリシーを公表しているが、アコードにはそのような公表はない。

またアコード、アライアンスともに効力は5年とされ2018年には執行する予定だったが、2017年にはアコード葉加盟業者とともに2021年まで延長の合意がなされた。バングラデシュ政府側はアコードの役割を引き継がせる目算で独自機関を設立し、また2018年4月にはバングラデシュ高等裁判所はアコードの有効期限を更新しないよう政府へ指示した。

アコードの要求する安全対策を全ての工場に導入するとなると膨大なコストがかかるといった不満が工場経営者などの有力者から聞かれたためだ。独自組織設立は、アコードの基準を遵守すれば国際的企業との取引が得られる、今ある取引を失わずに済むといった理由で「アコード的役割」の機関は保持しておきたかったのだと考えられている。

ほかにも、直接取引のある工場しか検査・指導下に置かれておらず、ラナプラザの事故や2012年の火災を起こした工場のように企業側の関知していないヤミ下請けまでは協定ではカバーしきれないといった問題点が指摘されている。

消費者の変化

2019年、豊島株式会社が行った調査結果によると、消費者の50%がファッションの製造過程における問題に関心を持ち、「労働環境・賃金問題」を注視している結果となった。

www.toyoshima.co.jp

国際的にも、ラナプラザ崩落事故をきっかけとしたファッションウィーク「ファッション・レボリューションウィーク」が毎年事故が起こった4月24日前後に行われる。

ラナプラザの事故を「他山の石」で終わらせない

バングラデシュで起こったラナプラザ崩落事故は、決して「遠い国の悲しい出来事」ではない。我々が普段着ている服はどこからやってきたのか、布はどこでどう織られたのか、どういう労働環境、労働条件でできたものなのか。それを知らず、意識せず、また知っていても行動変容をしない以上、その搾取に加担している。

貧困ゆえに、劣悪な環境でも働き続けなければいけない労働者に、尚も変わらない形態での労働を課している。ラナプラザの崩落事故の凄惨さは「事故」の側面のみで語ってはいけないのだ。

いち消費者としては、商品が自分の目の前に並ぶまでの工程を考え意識するのは、かなりしんどい。でも今しんどい思いをしながらも行動を変える意味はある。目先のことをいうと、社会が搾取を許さない姿勢になれば、商品ひとつ買うのに「これは搾取のうえに生産されたものではないか」と考えなくて済むようになる。

自分中心的な考えでもきっかけがある、エシカルのすそ野は考えているより広いのだろう。

Copyright ©もこけのもけもけ All rights reserved.

プライバシーポリシー